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2009-01-25

廃プラリサイクル施設周辺の健康被害事件(杉並・寝屋川)をどう捉えるか 池田こみち・鷹取敦

 東京都二十三区の家庭ごみの処理・処分は、2000年3月までは「東京都清掃局」が一括して行い、2000年4月以降は各区が収集し、「東京二十三区清掃一部事務組合」が焼却等の中間処理を行い、焼却灰・飛灰と燃やさないゴミが、東京湾中央防波堤にある「東京都」の最終処分場に、埋め立てられている。

 杉並区の不燃ごみ(主にプラスチック類)は、杉並区井草4丁目の区立井草森公園に設置された中継所(杉並中継所)に集められ、圧縮されて、大型のトラックに積み替えられ、最終処分場に搬入されている。

 杉並中継所の周辺では、施設の稼働直後から深刻な健康影響の訴えが多発した。

 この問題については、青山貞一教授(武蔵工業大学環境情報学部教授)が、以前に独立系メディア「今日のコラム」(以下の3つのURL)に紹介しているので、本稿末尾で紹介する記事と合わせてご覧頂きたい。

■「杉並病」を風化させないために~研究者らで現場を実査~その1
http://eritokyo.jp/independent/aoyama-col9901.html

■「杉並病」を風化させないために~研究者らによる調査を巡る議論~その2
http://eritokyo.jp/independent/aoyama-col9902.html

■<今日の一枚>「杉並病」発症の現場
http://eritokyo.jp/independent/aoyama-todayone11.html

 2008年より「東京二十三区清掃一部事務組合」では、廃プラを「不燃ごみ」から「可燃ごみ」に変更することとなった(開始時期は区によって異なる)。多くの区では容器リサイクル法による一部のプラスチックの資源物としての回収を始めたため、一部のプラスチックはリサイクルされ、残りのプラスチックが焼却処理されている。廃プラ焼却の問題については別途大きな問題があり、以前から何度も紹介してきた。

 いずれにしても東京都二十三区では廃プラがそのまま最終処分場に搬入されることはなくなるため、杉並中継所で圧縮・積み替えを行う必要は無くなった。そのため杉並中継施設は、この2009年3月に廃止されることとなっている。これを報じる毎日新聞の記事によると、杉並中継所周辺では、今でも健康影響に苦しんでいる人がいるという。

 一方、大阪府寝屋川市では廃プラリサイクル施設の周辺で、杉並中継所周辺と似たような健康被害の訴えが多発して裁判となり報道でも何度か紹介されている。杉並中継所同様にプラスチックの圧縮過程に起因するものではないかと疑われており、同じ毎日新聞の記事に報じられているので、以下に紹介する。

 記事にもあるように、廃棄物はリサイクルすることが「いいこと」とされ、全国各地に同様のリサイクル施設が多数建設されている。しかし、少数派とはいえ、杉並や寝屋川で被害者が出ていることに目を向けずに、リサイクルは「是」としてこうした施設をつくり続けることには問題がある。昨今の廃プラスチック焼却の是非を巡る議論と一緒になって、焼却かリサイクルかが二者択一のように言われるのも問題だ。

 消費した後の製品を焼却してもリサイクルしても環境への影響は少なからず発生する。根本的な問題は、いかにごみ処理(焼却・破砕・圧縮等を経たリサイクルなど)をしなくて済む製品作りを進めるか、そのための仕組み作り、制度づくりが不可欠であり、本来の生産者責任(いわゆる拡大生産者責任)こそしっかりと問われるべきである。現状のように、すべてを消費者や自治体の「処理」に依存できるシステムは早急に見直しが必要である。

 この種の施設建設をめぐり地域分断や地域紛争が起こることは不幸なことであり、地域住民の闘いがより本質的なごみ政策の見直しにつながっていくことを望みたい。なお、寝屋川事件では、原判決があまりにも不公正かつ不見識であるとして原告側が控訴している。杉並でも寝屋川でも、裁判では施設の建設や稼働を認めた行政がその背後にあって、被害実態や被害者の救済に対する判断が軽視されがちであることが課題である。その意味でも、第三者的に被害者を支援する研究者や専門家の関与が鍵となる。



毎日新聞
http://mainichi.jp/life/ecology/news/20090118ddm041040094000c.html
ニッポン密着:「杉並病」ごみ施設3月廃止、被害今も 鈍い行政、住民不信感

 東京都杉並区で、多数の周辺住民が健康被害を訴えた「杉並病」の原因となった不燃ごみ中間処理施設「杉並中継所」が今年3月廃止される。稼働から13年、被害者の苦しみは続くが、杉並と同様に廃プラスチックを扱う大阪府内の施設周辺では、杉並病に酷似した症状を訴える住民が続出して問題化している。ごみを大量に生み続けるニッポン。杉並病問題は終わりではなく、始まりだったのではないか--。

 ベランダに布団を干す家が多い晴天の日、木村洋子さん(67)宅の窓は閉め切られていた。干した布団で寝るとせきや湿疹(しっしん)が出る。付着物質に反応するという。月10万円の年金暮らし。「何の楽しみもない。生きているだけ」と言った。

 中継所から約500メートル離れた練馬区の2階建てに住む。夫を胃がんで亡くし1人暮らし。中継所が稼働後間もなく勤務先の百貨店で立っていられないほどの疲労感に襲われ、目がかすんだ。帰宅後は食べた物を吐き、体中に赤い斑点もできた。過労と考え、98年、定年2年前に退職した。

 00年、居間で倒れ、救急車で運ばれた。目が見えなくなり体が揺れてベッドをつかんで耐えた。めまいの診断で入院後、自宅に投げ込まれた印刷物で「杉並病」を初めて知った。木村さんは、当初、中継所問題を知らなかった「被害者」だ。区職員に病状を訴えたが、その後連絡はなかった。

 宮田幹夫・北里大名誉教授の診断は化学物質過敏症。杉並区の依頼で被害者の集団検診をした経験を持つ宮田教授は「自律神経や眼球運動、視覚検査で異常が出ており、中継所近くの被害者と同じ症状。発症時期から考えても中継所の影響は間違いない」と語る。


 杉並病の特徴の一つは、被害者がありながら原因物質はいまだに特定されていないということだ。中継所から多くの化学物質が発生しており、国の公害等調整委が「特定できない化学物質」としたのに対し、都の調査委員会が00年に報告したのは「不燃ごみを処理する際に発生した硫化水素」で、07年の東京地裁判決も追認した。

 しかし、硫化水素説は揺らぎ始めている。自殺の手段として知られるが古くから温泉で発生しており、複数の医学・化学者は「今も続く症状は説明できない」と、広く化学物質説をとる。調査委会長の柳川洋・自治医科大名誉教授(公衆衛生)は「中継所稼働後の数カ月間、硫化水素が出たのは間違いなく主因だと判断した。しかし、その後の健康被害は調べていないので分からない」と振り返る。

 原因追究も含め一連の行政側の対応に被害者側が不信感を募らせ、多くが補償を申請しなかった。そこには、科学・医学的知見が定まっていない被害にどう対
応するか、決め手を欠く行政の姿がある。


 大阪府寝屋川市。環境NGO(非政府組織)代表で地元町内会長の長野晃さん(65)は「まさか足元で」と嘆いた。知人に杉並中継所のデータ調査を依頼された際、プラスチック圧縮過程で化学物質が発生する事実に驚いた経験があった。その3年後、地元自治体などから集めた廃プラを加工する民間施設が近くにでき、寝屋川市などが共同運営する廃プラ中間処理施設も昨年稼働した。隣接する施設の間に立つと甘酸っぱいにおいが鼻につく。地元では「廃プラ臭」と呼ぶ人もいる。

 民間施設が運転を始めた翌年の06年夏、津田敏秀・岡山大教授(環境疫学)が約1500人を対象に実施した健康調査では、施設から700メートル以内の住民は2800メートル付近に比べ、湿疹の発症が12・4倍、目の痛みが5・8倍になる結果が出た。左半身がしびれたまま食べ物を吐き続けた20代の女性もいる。

 しかし、住民による2施設の運転差し止め請求訴訟は昨年9月、大阪地裁が「化学物質は排出されているが、健康被害は認められない」と棄却(住民側控訴)。市や府も一貫して被害者の存在を認めず、住民への疫学調査もしていない。

 「病因物質の特定より、施設周辺で症状が多発している事実が優先ではないか。水俣病など公害の拡大は行政の放置の歴史だった」

 津田教授の指摘が杞憂(きゆう)と言い切れるかどうか。

 廃プラの中間処理やリサイクル施設は全国で700を超え、増加を続けている。
【宍戸護】 

◇跡地に廃プラ施設、区長は「設置せず」
 山田宏・杉並区長は、中継所跡地に廃プラ中間処理など化学物質を排出する施設は設置しない方針を明らかにした。東京都から施設を移管された際、20年度まで「ごみ施設」として使用するという条件があるが「現実に健康被害に悩む人たちがおり、同じような施設では廃止の意味がない。清掃関連施設として幅広く考える」という。

==============

■ことば
◇杉並病の経緯

 収集車が地域で集めた不燃ごみを圧縮して東京湾岸の処理センターに運ぶための施設「杉並中継所」が96年春に稼働後、周辺住民120人以上が目やのどの痛み、皮膚炎、倦怠(けんたい)感などを訴え、「プラスチックの圧縮過程で発生した化学物質が原因で健康被害に遭った」と主張した。中継所は00年に東京都から杉並区に移管された。02年には国の公害等調整委員会が申請者18人のうち14人の健康被害との因果関係を認めたが、これまで被害補償された人はいない。
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theme : 社会
genre : 政治・経済

2009-01-17

支持率20%を割りこんだ麻生KY断末魔内閣  青山貞一

 ブレ続け、迷走に迷走を続ける麻生内閣の支持率が20%を割り込んだ。他方、不支持率は70%前後と上昇している。直近では安倍、福田とも20%を割り込んだところで退陣している。

 過去から、この種の伝統的な世論調査は、インターネットのWeb上のアンケート調査とまったく異なり、層化2段無作為抽出法など、統計学的にみて妥当な方法を用いて行われているので、時期が同じであれば結果にそれほど大きな違いはないはずだ。


 事実、1月上旬に行われた今回の内閣支持率の世論調査結果では、フジサンケイグループ、読売新聞、朝日新聞、共同通信、いずれもほぼ同じ傾向と結果となっている。

 各社の世論調査で内閣を支持しない理由として最も多いのは、「政策に期待できない」というものだ。「読売」で36%、共同で29%と不支持理由の1位となっている。

 世論調査における麻生政権の不評な具体的施策として、公金を使った“選挙買収”と批判されている総額二兆円に及ぶ「定額給付金」がある。

 「支給をやめるべきだ」と答えた人が78%(「読売」)、70・5%(共同)、78%(JNN)にのぼり、反対が圧倒的多数となっている。この定額給付金は自治体などの事務経費が800億円とも1000億円ともなることが分かっており、実に不誠実、不見識な国民を愚弄するバラマキ策である。

 しかも、この100年に一度の経済危機に、総理はじめ閣僚がもらうだ、もらわないと公衆の面前で人を馬鹿にした言動を繰り返していることが国民からいっそうの反感を買っていることは間違いない。

 さらに迷走する麻生首相が掲げる2011年度からの消費税引き上げについては、「評価する」が約3割なのに対し、「評価しない」が、59・1%(「読売」)、56%(「朝日」)と過半数を占めている。

 自民党の細田博之幹事長は1月13日午前の記者会見で、世論調査で麻生内閣の支持率が10%台となったことに関連して「批判は批判として受け止めるが、今日あたりが底だ」と強調した。

 この種の政府幹部の強気の発言は、これまで幾度と繰り返されてきたが、その後の推移を見ると麻生政権も安倍、福田政権同様、奈落の底にまっしぐらとなっている。到底、「今日あたりが底」などとはなっていない。歴代内閣はいずれも支持率が10%台となったあとジ・エンドとなっている。

 もとより、何ら正当性も正統性もない小泉以降の安倍、福田、麻生のたらい回し政権は、いずれも二世、三世など世襲議員であり、あらゆる場面で人並みの苦労をせずに国会議員となったひとたちである。

 百年に一度という経済危機、国難にマトモに対応できるわけがない。麻生総理は「政局より政策」ともっともらしいことを言いながら、実際にしていることはすべて政局まがいで、終始解散逃れのことばかりであり、やることなすことがちぐはく。

 結果的に景気は大企業から中小零細企業まで悪化の一途をたどり、今年三月末の決算ではトヨタ1500億円、ソニー1000億円など赤字のオンパレードとなる見込み。昨年後半から顕著となった企業の倒産件数、とくに上場企業の倒産件数の歯止めがかからない。

 そもそも1ドルが100~110円をめどにして、輸出依存の加工貿易を国是、国策としてきた日本は、一旦、円高となればあっと言うまに利益がなくなる。トヨタやソニーが従業員を一気に大規模解雇したのはとんでもないことだが、トヨタが1円円高となるごとに400~500億円の赤字となるのは間違いない。すべてがすべて円安、輸出、安い人件費などをもとに企業活動を続けてきたからである。

 上場企業には100%輸出依存の企業もあるが、著名な製造業企業の多くが製品の70%以上を海外輸出に頼っているのが日本である。こうなると、金融危機と円高が同時並行で進む現下の経済状況下では、一気に企業の経営が悪化する。

 もちろん、直近の数年は超がつく好景気であった。税引き後の内部留保の余剰金の累積がトヨタが15兆円超、キャノンが3兆3000億円超など、なまじの小さな国の一般会計予算より大きな額がある。したがって、いきなり大規模な首切りをするのではなく、調整期間を設けるのがCSR、すなわち企業の社会的責任をまっとうすることであると思う。

 ちなみに、日本の大手製造業16社の内部留保(余剰金)の合計は33兆円に及ぶと言われている。日本の一般会計の国家予算が80兆円前後であるからその1/3以上に相当する額である。

 とはいえ、大から零細まで企業収益が一気に悪化すれば、今後の国、自治体の財政運営が今まで以上に困難になるだろう。住民税なども収入が増えず、解雇で満足な収入の道がない人々が増えれば、市町村財政はさらに悪化することは火を見るより明らかだ。まともな報道をしていない日本の大メディアも、スポンサーの景気が悪化すれば、さらにスポンサーの顔色を見ながら番組をつくることになる。

 毎日毎日、アホづらしてしたり顔で偉そうなことを言っている国会議員らをテレビで見るに付け、がまん強い日本国民も爆発寸前となっているのはいうまでもないことだ。よくぞ今まで忍耐していたものである。

 そもそも国会議員、地方議員、国、自治体の行政はすべて国民、企業が納める税金を原資として食っている。

 巨大上場企業が軒並み赤字となれば当然のこととして法人所得税が大きく目減りするからだ。プライマリーバランスもとれないばかりか、今後、一般会計そのものも過去以上に借金割合が増える。累積債務も増えることになるだろう。

 今後とも円高基調は継続するし、一旦下落した原油価格だが、いつなんどき上昇に転ずるか分からない。さらに、米国発の世界的な金融危機はたとえオバマ政権となったからと言って急速に改善するとは思えない。

 とりわけ不況で倒産が顕著なのは不動産、建設分野だ。昨年、不動産や建設会社の倒産が相次いだ。しかし、今年もこの状況は一向に改善されることなく続きそうだ。

 1月9日には、ジャスダック上場の東新住建と東証1部のクリードが倒産。新年早々の出来事に衝撃が走っている。 いずれにせよ2008年の倒産が5年ぶりに1万5000件を超過し、上場企業の倒産は33件と戦後最多となった。今年はそれを上回る倒産が危ぶまれている。

 となると、不況克服には、まずは国民世論の空気も読めず、漢字も読めない麻生KY断末魔内閣の退陣以外なしということになる!

 麻生政権に限らず、自公政権はとっくに賞味期限だけでなく、消費期限が切れていて食べると危ない状態になっているはずだ。それが分からないのは当事者だけ、まさに裸の王様状態が続いている。

 みんなで踏ん張れば怖くないという時期はとっくにすぎている。現状維持と既得権益にしがみつく世襲の国会議員を見るに付け、この国の政治が官僚同様いかに腐りきったものであるかがわかるのである。

 上述のように国民の大半が「そんなものいらない」「ムダ」だ言っている定額給付金にしがみつき、無駄な時間を浪費していることひとつをとっても、麻生総理は頭の回転が悪く、KYそのものである。

 こんな人物を支え続けている今の日本の自公政治では、日本の将来はない。滅びるだけだろう。いち早く、政権交代のない腐った国ニッポンから脱却することがこの国の蘇生、再生の第一歩である。

theme : 政治・経済・時事問題
genre : 政治・経済

2009-01-17

中大教授刺殺事件と大学のリスク管理  青山貞一

 中央大学理工学部の高窪 統 ( はじめ ) 教授(45)が何者かによって刺殺された。報道記事を読む限りでは、なぜ教授が殺されたのか、今のところ理由、原因はまったく分からない。だが、刺殺の状況証拠から見ると非常に残忍だ。

 ※中大教授刺殺:教授の行動、把握 待ち伏せ、周到に準備か 毎日新聞

 ここ数年、尊属殺人や猟奇殺人など非常に残忍でかつ動機、原因が分かりにくい刑事事件が多発化している。卑劣な車のひき逃げも多い。世界各国のなかで比較的治安、安全を誇ってきた日本社会だが、誰しもが刑事犯罪のリスクを意識し、自ら対応しなければならない時代に入っている。

 ....

 ところで私は今の大学に着任する以前、プロフィールにあるように環境総合研究所と兼務でいろいろな大学の非常勤講師をしていた。早大、東京農工大、東京工大、法政大、慶應大、東洋大などなど。いずれも環境科学、環境政策などを担当していた。 

 非常勤講師を務めていた大学のなかに実は中央大学理工学部もあった。後楽園近くにある中央大学理工学部で約7年間、土木と環境をテーマに非常勤の講師をしていた。中央大学理工学部では私も理事をしている環境アセスメント学会の総会がよく開催されたこともあり、校舎は異なるものの近くの建物にある教室をよく使っていた。

 そんなこともあって、今回の刺殺事件には本当に驚いた。ショックも受けた。

 たまたま事件があった日、学部の教授会があり、私は全学リスク管理委員長をしていることもあって、大学に関連する刑事事件などに係わるリスク管理の話しをしていた。

 ちょうどその話しが終わったとき、同僚の教員がホームページに掲載された中大教授刺殺事件について連絡してきたのである。

 ....

 ところで、大学というところは、日本の大学に限らず世界中どこの大学でもキャンパス内への出入りは一般的に自由である。アメリカの大学を例にとれば、ハーバード大学でもマサチューセッツ工科大学でも、カリフォルニア大学バークレー校でも出入りは自由である。

 直近で行ったローマ大学(イタリア)、武漢大学(中国)、カリフォルニア大学サクラメント校などでもすべてキャンパス内への出入りは自由であり、トイレはもとより教室や研究室、実験室などへの出入りも比較的自由なものが多い。

 研究室や実験施設などは管理責任者がいて、施錠しているが、たとえば教授らがトイレに行くとき、昼食をとるとき研究室や実験室に必ず施錠して行くかといえば、イエスとは言えない。

 私がいる学部では休日や夜から朝までは教室、研究室などがある施設への出入りは許可制となっているが、多くの大学ではそれすらない場合が多いようだ。すなわち常時キャンパスだけなく大学の各種施設も出入り自由ということだ。

 少々大げさに言えば、キャンパスや施設への出入りが自由なことが、大学のひとつのシンボルであり自由、自治、自律の誇りであるとさえ思われているところがある。

 しかし、リスク管理、しかも窃盗、盗難、殺人など刑事事件との関連でみると、大学はまったく無防備であると言えないこともない。

 事実、その昔、ハーバード大学大学院のケネディー・スクール・オブ・ガバメントにいた知人の教授を訪問したとき、研究室からパソコン一式がそっくり盗まれたと騒ぎになっていた。

 比較的最近の例ではジョージア工科大学で拳銃乱射事件があり、第一回目の乱射のあとに投稿してきた学生らに対し、第二回目の乱射があり、多数の学生等が犠牲になった事件が生々しい。

 私の大学ではジョージア工科大学の拳銃乱射事件を大きな教訓として、学生、大学院生の携帯電話を対象に、大学から学生・院生に緊急連絡を送るネットワークシステムを考え、実行に移している。

 また学生・院生が刑事的リスクに遭遇した場合、携帯からすぐさまリスク管理委員会にメールを送るシステムも開発した。さらに学生、教員が持参する学生手帳などにも刑事事件対応マニュアルを加えた。

 大学の一部では固定の防犯カメラ、Webカメラを要所に取り付け、それらをアーカイブしているところもあるが、上述のように自由、自治、自律を旨とする大学にあって、この種の監視カメラを設置することには反対、異論もある。

 今回の事件に関連し、コンビニのレジに取り付けられているような防犯カメラなどがあればと思う人もいるだろうが、上述のようにことはそう簡単に行かない。

 上記はすべて、いわばハード、物理的施設に係わるものだ。また刺殺があくまで学外の者を想定してのことだが、もし、学内関連の怨恨、アカハラ、論文盗用や内部の人間関係などが原因、遠因だとすれば、なかなか当事者以外、外部からは見えないことになる。

 いずれにせよ、大学の場合、ハードとは別にリスクに関する「意識」、「認識」など気持ちの上での備えが高いとは言えない。自分たちだけは窃盗、盗難、殺人など刑事事件に遭遇したり、巻き込まれることはない、ということである。

 もちろん、大学教授が通勤途中の痴漢騒動などが新聞記事となるが、それでも自分は関係ない、あり得ないと思っている節がある、と思える。

 いずれにしても、今回の事件をきっかけとして、私達大学人が刑事事件のリスクにもっと強い関心、意識をもち、認識を新たにし、日頃から自らリスク管理を徹底することが望まれる。

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